弘前大学

「白神の森乳酸菌?」L8株に、大腸炎を改善する効果があることを研究で確認しました

2025.01.21

プレスリリース内容

本学研究者

弘前大学大学院医学研究科 消化器血液免疫内科学講座 櫻庭 裕丈 教授(「研究者総覧」の研究者ページへ)
弘前大学大学院医学研究科 血管?炎症医学講座 川口 章吾 助教(「研究者総覧」の研究者ページへ)

本件のポイント

弘前大学大学院医学研究科消化器血液免疫内科学講座の櫻庭 裕丈 教授と血管?炎症医学講座の川口 章吾 助教らの研究グループは、腸炎モデルマウスを用いた研究により、「白神の森乳酸菌?」L8株に炎症改善効果があることを明らかにしました。
「白神の森乳酸菌?」L8株の加熱殺菌粉末を経口投与したマウスは、投与しなかったマウスに比べ腸炎の程度が軽く、炎症に伴い産生される分子の一つである腫瘍壊死因子-α (TNF-α)が有意に抑えられていました。
今回の研究成果は「Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition」に掲載されました(2024年12月28日オンライン先行公開)。

本件の概要

背景

近年、健康志向の高まりを背景に乳酸菌などの「プロバイオティクス」に注目が集まっています。プロバイオティクスの摂取により腸内環境を適正に保つことが、多くの疾患の予防につながることが明らかになってきました。「白神の森乳酸菌?」L8株は弘前大学農188体育官网-【体育娱乐】@命科学部の殿内暁夫教授が分離した菌で、ラクトコッカス?ラクティスという乳酸菌に分類されます。ラクトコッカス?ラクティスは乳製品などの発酵食品に含まれる一般的な菌種で、複数の株が報告されています。L8株は白神山地に自生するキハダの葉から分離され、植物由来の乳酸菌である点が特徴です。これまでに、農188体育官网-【体育娱乐】@命科学部の前多隼人准教授によって生活習慣病予防に関する研究が進められており、肝機能改善効果に関する特許が取得されています。
一部の乳酸菌プロバイオティクスの中には、マウスの大腸炎を改善させる効果があるものが同定されていますが、「パラプロバイオティクス」と呼ばれる加熱殺菌等で不活性化した乳酸菌による炎症改善効果を明らかにした研究はほとんどありませんでした。
本研究では「白神の森乳酸菌?」L8株の加熱殺菌体がマウスの大腸炎に及ぼす効果を調べました。

研究成果

実験用マウスに3.5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を7日間自由飲水させ、大腸炎モデルを作成しました。L8株投与群では腸炎の誘導5日前から「白神の森乳酸菌?」L8株を投与しました。腸炎の程度について体重減少や便性状から構成される臨床症状スコア(体重減少:0?4点、水様便:0?3点、出血:0?3点で算出)と大腸の組織像を以下の4群で比較しました(表1)。

実験開始から12日目の体重の変化率(開始時点を100%とする)を図1に示します。グループ3と4は腸炎に伴う体重減少が認められていますが、その程度はグループ3と比較するとグループ4の方が軽度でした。腸炎により便の性状が変化し始める7日目の臨床症状スコアは、グループ3に比べ、グループ4の方が顕著に低い結果でした(図2)。

大腸の組織は腸炎が生じると粘膜上皮の構造が破壊され、活性化した免疫細胞の著明な浸潤が認められるようになります(図3)。L8株を投与したグループ4では、グループ3と比べ、組織像の異常が軽減しておりました。また、このとき腸管局所では、活性化した免疫細胞がサイトカインと呼ばれる生理活性物質を産生しています。L8株を投与したグループ4ではグループ3よりも炎症性サイトカインの一つである腫瘍壊死因子-α (TNF-α) の濃度が有意に低下していました(図4)。
以上の結果から、腸炎に対しL8株の投与が有効であることが明らかになりました。

今後の展望

本研究により「白神の森乳酸菌?」L8株が腸管炎症を改善する有益な乳酸菌株であることが示されました。今回使用したL8株は、加熱殺菌した乳酸菌です。生きた乳酸菌と異なり、食品加工への制限がほとんどありません。そのため、これまで生菌では商品化が困難であった加熱食品などへの応用が可能であり、商品の安全性、保存性の向上にもつながると考えられます。将来的には機能性表示食品への展開を目指して、免疫機能の調節効果を検証するための臨床試験につなげたいと考えています。

用語説明

  • 白神の森乳酸菌?:弘前大学が白神山地から分離した乳酸菌に命名しているブランド名。
  • L8株:白神山地に自生するキハダの葉から分離した乳酸菌(Lactococcus lactis subsp. lactis L8 strain)。
  • プロバイオティクス:摂取することで宿主に有益な効果を与える生きた微生物。(Lactococcus lactis subsp. lactis L8 strain)。
  • パラプロバイオティクス:加熱殺菌等で不活化したプロバイオティクス。効果のメカニズムについては十分解明されていないが、菌体成分による宿主の免疫系の調節作用が推察されている。
  • デキストラン硫酸ナトリウム(DSS):飲水に混ぜて経口投与することにより、マウスに急性大腸炎を誘導することができる薬剤。
  • サイトカイン:免疫細胞など様々な細胞が分泌する生理活性物質の総称で、多様な生理作用を発揮する。その中で生体内において炎症反応を促進する効果をもつものを炎症性サイトカインと呼ぶ。
  • 腫瘍壊死因子-α(TNF-α):炎症性サイトカインの一つであり、細胞の増殖や分化など広範な生理作用がある。

論文情報

著 者:Shogo Kawaguchi, Daisuke Chinda, Shinji Ota, Akio Tonouchi, Hayato Maeda, Kazuhide Miura, Go Soma, Hiroto Hiraga, Kayo Ueno, Takenori Niioka, Mayuki Tachizaki, Kazuhiko Seya, Tadaatsu Imaizumi, Shinsaku Fukuda, Hirotake Sakuraba
論文名:Heat-killed Lactococcus lactis subsp. lactis L8 ameliorates dextran sulfate sodium-induced colitis in mice
雑誌名:Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition
DOI:10.3164/jcbn.24-194

詳細

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プレスリリースに関するお問合せ先

弘前大学大学院医学研究科 血管?炎症医学講座
助教 川口 章吾
TEL:0172-39-5145
E-mail:kawaguchi.shirosaki-u.ac.jp