【プレスリリース】ヒト腸内の“生きた”菌叢構成に関する新たな発見(医学研究科)
2022.03.23
研究
本件のポイント
- 国立大学法人弘前大学(188体育官网-【体育娱乐】@ 福田 眞作)と株式会社ヤクルト本社(社長 成田 裕)は、Propidium monoazide (PMA*1)と次世代シークエンシング(*2)を組み合わせて、ヒトの大腸各部位における“生きた”菌叢構成の解析に成功しました。
- 一般的な次世代シークエンシングでは生菌だけではなく死菌も含めて菌叢構成を解析するため、ヒトの大腸各部位の“生きた”菌叢構成の解析は本研究が世界で初めての報告です。
- 本研究結果は3月4日に「Scientific Reports」誌(*3)で発表されました。
- 雑誌名:Scientific Reports
(https://www.nature.com/articles/s41598-022-07594-6) - 論文表題:Spatial distribution of live gut microbiota and bile acid metabolism
in various parts of human large intestine - 著者:Daisuke Chinda, Toshihiko Takada, Tatsuya Mikami, Kensuke Shimizu,
Kosuke Oana, Tetsu Arai, Kazuki Akitaya, Hirotake Sakuraba,
Miyuki Katto, Yusuke Nagara, Hiroshi Makino, Daichi Fujii,
Kenji Oishi, Shinsaku Fukuda
概要
腸内細菌はヒトと共生関係にあり、健康に深く関わっています。
腸内細菌が多く棲息するヒトの大腸は盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S字結腸および直腸に大別され、生理機能や上皮細胞の構成は各部位で異なります。腸内細菌の生態も大腸の各部位で異なっている可能性がありますが、一般的にヒトの腸内菌叢を調べるために試料として用いられている排泄便では、その違いを調べることができませんでした。また、腸内細菌が産生する代謝物にはさまざまな生理作用が報告されており、ヒトの健康に影響を及ぼすことが示唆されています。
腸内細菌の生態や代謝物との関係、そしてヒトの健康への影響を理解するためには、“生きた”細菌に注目して解析する必要があります。しかし、これまでの研究は、生菌と死菌の両者をまとめた解析がほとんどでした。
そこで本研究では、従来の測定法に加えて、“生きた”細菌のみが検出可能なPMAによるアプローチを取り入れ、健常成人を対象に大腸内視鏡により腸管各部位の内容物や粘液、便を採取して、そこに含まれる腸内菌叢を解析しました。
大腸各部位(上行結腸、下行結腸、直腸)の腸内菌叢を比較したところ、従来の測定法による生菌と死菌を合わせた総菌について大腸の各部位で菌叢の構成に差は認められませんでしたが、PMAを用いた生菌の解析では、いくつかの細菌群の生菌構成比が部位により異なることが分かりました(図)。
例えば、ヒト大腸における最優勢菌群の一つであるラクノスピラ科の生菌構成比は、上行結腸、下行結腸、直腸、便の順に徐々に減少していました。ラクノスピラ科には、腸上皮細胞のエネルギー源となり、また抗炎症作用を有するなど、最近注目されている酪酸を産生する細菌種が多数属しています。この結果は、上行結腸がヒトに有益な酪酸の主要な産生部位である可能性を示すものです。
“生きた”腸内細菌がヒトの身体の状態にどのような影響を与えるかについては、まだ多くのことが解明されていません。今後、腸内菌叢の生態とヒトの健康や病態との関係を明らかにするうえで、本手法を用いた“生きた”腸内菌叢の解析は有用であると考えられます。
*1 PMA:死んだ細菌の細胞膜を通過し、二本鎖DNAに結合する。さらに光照射によってDNAと強固に結合するため、PCR(DNAの増幅反応)を阻害する作用がある。PMA処理後のシークエンシングでは、PCRでDNAが増幅しない死菌は検出されず、生菌のみが検出される。
*2 次世代シークエンシング:2000年以前に使用されていた遺伝子配列の分析技術と比較して、数百万倍以上の速度で遺伝子配列を読み取ることが可能となる技術の総称。
掲載論文
*3 Scientific Reports は、一次研究論文を扱う、オープンアクセスの電子ジャーナル。自然科学(生物学、化学、物理学、地球科学)のあらゆる領域を対象とし、自然科学の特定分野の専門家に関心の高い研究論文を迅速に査読して出版できる環境を備えている。
世界で6番目に引用されているジャーナルで、2020年には540,000を超える引用があり※、政策文書やメディアで広く注目されている。(※引用 Nature Asia web )
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