弘前大学

ホヤのオタマジャクシ幼生の中に20秒を数えるタイマーを発見

2022.07.12

プレスリリース内容

ポイント

  • ホヤの幼生はオタマジャクシの形をしていて、しっぽを左右交互に振って泳ぎます。
    長さ約1ミリメートルほどのホヤのオタマジャクシ幼生が行うさまざまな運動パターンを詳しく分析することで、しっぽの付け根、すなわち“くびねっこ”の部分にしっぽを左右に振るのに必要不可欠な機能が備わっていることが分かりました。
  • さらに興味深いことに、その“くびねっこ”領域には、20秒おきにしっぽ振り運動を自動的に発動させる“タイマー”が内蔵されていることが発見されました。
  • 弘前大学大学院農188体育官网-【体育娱乐】@命科学研究科の大学院生(当時)の原隆志さんと長谷川修也さん、西野敦雄教授が中心となって推進し、本学理工学研究科の岩谷靖准教授の協力を受けて得られた発見です。この成果は、6月9日にJournal of Experimental Biology誌(英国実験生物学雑誌)に発表されました。

概要

ホヤ類には、東北地方で食用にされるマボヤのほかにもいろいろな種類が存在していますが、実は、養殖ホタテを汚損することで知られる外来種ヨーロッパザラボヤをはじめ、その多くが害動物です。付着生物であるホヤ類の生息場所の移動や拡大(海底から養殖籠へなど)は幼生によって行われることから、ホヤ幼生の遊泳能力の研究は重要だと考えられます。
ホヤは、幼生期にはオタマジャクシの形をしており(図1)、海の中を自由に泳ぎ回ります(図2)。このホヤのオタマジャクシ幼生は非常に小さく、体長が約1ミリメートルしかありませんが、形は魚類の幼魚やカエルのオタマジャクシに似て、またカエルのオタマジャクシと同様にしっぽを左右交互に振って泳ぎます。これまでの研究から、カエルのオタマジャクシや魚類が遊泳時に左右に振る運動を発動させる機能は、脊髄のどの部分にも備わっていることが分かっていましたが、ホヤのオタマジャクシ幼生でも同じであるかどうかについては、はっきりしたことが分かっていませんでした。

図1:カタユウレイボヤの幼生

図2:泳ぐ幼生(重ね合わせ写真)

本学大学院生(当時)の原隆志氏は、農188体育官网-【体育娱乐】@命科学研究科の西野教授とともに、害動物のホヤの一種であるカタユウレイボヤを使って、そのオタマジャクシ幼生の体のどの部分にもしっぽを左右交互に振って泳ぐ能力があるかどうかを詳しく調べました。その結果、ホヤのオタマジャクシ幼生においては、しっぽの付け根の部分、すなわち“くびねっこ”の領域にのみ、しっぽを左右交互に振る運動を発動させる機能があり、その他の領域にはないことを見出しました。
さらに興味深いことに、原隆志氏と、同じく本学大学院生(当時)の長谷川修也氏は、本学理工学研究科の岩谷准教授の助力を得て、この“くびねっこ”領域は、特別な刺激がなくとも自動的に、約20秒ごとにしっぽを振る運動を発動させる性質を備えていることを証明しました。つまり、ホヤのオタマジャクシ幼生の“くびねっこ”には、泳ぐタイミングを計る20秒のカウントダウンタイマーが備わっていることを意味します。
我々が睡眠中や麻酔中のような無意識下でも呼吸が止まらないのは、脳の中(まさに“くびねっこ”の位置)に、数秒に一回、呼吸運動を自動的に発動する機能をもった領域(呼吸中枢とよばれる)が存在するからにほかなりません。今回発見されたホヤ幼生がしっぽ振り運動を発動するために備える自動タイマーは、我々の呼吸中枢に似た性質をもっていると言えます。この事実に重ね合わせて言えば、つまり、ホヤの幼生は“息をするように泳いで生息域を拡大している”とも捉えることができるでしょう。
本研究の成果は、害動物であるホヤが生息域を広げるのに用いられる根本的なメカニズムの一端を明らかにしただけでなく、生物の運動リズムが生み出される仕組みや、我々の脳にも備わる“意識”の起原にも触れる興味深い研究成果であると思われます。

なお本研究は、科学研究費補助金(22H04827,20K06713,25440150,17K19369)および本学若手研究者支援事業および異分野連携若手研究支援事業の支援の下で遂行されました。また、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP、国立研究開発法人日本医療研究開発機構AMED)、山田科学振興財団、住友財団、積水インテグレーテッドリサーチにも研究に対するご支援をいただきました。本成果は、英国The Company of Biologistsが発行する伝統ある科学雑誌 Journal of Experimental Biology誌において発表されました。

■ プレスリリースは こちら(313KB)