弘前大学

半導体ナノシートの「二硫化モリブデン」を自己組織化ペプチドで修飾した高感度なナノシート?バイオセンサーを開発

2023.04.25

プレスリリース内容

本学研究者

理工学研究科 物質創成化学科 関 貴一 助教

本件の要点

  • 半導体ナノシートの二硫化モリブデンを、自己組織化ペプチドにより修飾した高感度なナノシート?バイオセンサーを開発。
  • 新規に設計したペプチドは、ナノシート上で安定な単分子膜を自己組織化によって形成。簡便な方法で、ナノシートの本来の半導体特性を維持したまま生体分子と親和性がよい界面を作ることに成功。
  • バイオセンサーの実証実験では、低濃度のタンパク質を高感度で検出することに成功。

本件の概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の野口紘長大学院生(研究当時)、早水裕平准教授、および弘前大学大学院 理工学研究科の関貴一助教(研究当時:東京工業大学 物質理工学院 材料系 博士後期課程)らは、ペプチド(用語1)の自己組織化(用語2)を利用して、半導体ナノシートである「二硫化モリブデン(用語3)」の表面を分子修飾することで、高感度なナノシート?バイオセンサーの開発に成功しました。

二硫化モリブデンは、モリブデンと硫黄原子からなるシート状の層状物質で、1層のナノシートの厚さは5?(0.5ナノメートル)程度と非常に薄い構造となっています。また、二硫化モリブデンは半導体特性を有しており、現在バイオセンサーの新材料として考えられているグラフェンを超える、高感度なバイオセンサーになると注目されています。しかし、バイオセンサー用ナノシートの表面には生体分子と結合するための表面修飾を施す必要があり、既存の化学的な分子結合や物理的な吸着などの修飾法では、二硫化モリブデン本来の電子物性を損なってしまうことが問題でした。

本研究では、二硫化モリブデンの表面で規則正しい構造を自己組織的に形成するペプチドを新たに設計し、簡便に二硫化モリブデンの表面に分子修飾を行いました。これを用いたナノシート?センサーの特性解析結果から、ペプチドはナノシートの本来の半導体特性を維持したまま電子移動度を低減させることなく表面修飾に成功していることが分かりました。加えて、二硫化モリブデンの光物性もペプチドによって制御できることを証明し、バイオセンサーの実証実験では、1fM(用語4)の低濃度タンパク質を高感度で検出することにも成功しました。

本研究で設計した自己組織化ペプチドにより修飾された二硫化モリブデンの半導体ナノシートは、今後、多様なバイオセンシングにおいて可能性の幅を広げることに貢献するものと期待されます。

この研究成果は「ACS Applied Materials & Interfaces」のオンライン版にて、現地時間2023年3月9日に掲載されました。

図1:単層の二硫化モリブデン(MoS2)表面でバイオセンサーのプローブとして機能するペプチド自己組織化構造の模式図。

用語解説

  • (用語1)ペプチド:アミノ酸がペプチド結合によって短い鎖状に連なった分子。一般にアミノ酸の数が50未満のものをペプチド、50以上のものをタンパク質と呼ぶ。
  • (用語2)自己組織化:分子や原子などの物質が、秩序を持つ大きな構造を自発的に作り出す現象。
  • (用語3)二硫化モリブデン炭素原子一層からなるグラフェンをシリコン基板上に設置し、その両端の電極からグラフェンの電気伝導を計測できるトランジスタ。溶液中に設置した参照電極に電圧を印加することで、グラフェンの電気伝導を制御できる。
    【2023.5.1修正】化学記号でMoS2と表され、1個のモリブデン原子が2個の硫黄原子により上下からサンドイッチされたサブナノメートルレベルの薄いナノシート構造を形成する化合物。
  • (用語4)fM(フェムト?モラー):フェムトは10-15を示すので、1 fMは溶液1リットル当たりに含まれる分子の物質量が10-15モルであることを意味する。すなわち1 cc当たりわずか600個強【2023.5.1修正】60万個強の分子が含まれる濃度である。
  • (用語5)トランジスタ構造:3つの電極からなる。ゲート電極からMoS2に電界を印可することで、MoS2の電気伝導度を制御する。電気伝導度は、MoS2の両端にある2つの電極に流れる電流から計測できる。

論文情報

掲載誌:ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル:Self-assembled GA-Repeated Peptides as a Biomolecular Scaffold for Biosensing with MoS2 Electrochemical Transistors
著者:Hironaga Noguchi, Yoshiki Nakamura, Sayaka Tezuka, Takakazu Seki*, Kazuki Yatsu, Takuma Narimatsu, Yasuaki Nakata, and Yuhei Hayamizu*
DOI:https://doi.org/10.1021/acsami.2c23227

プレスリリース

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