大気中へのヨウ素放出経路の新たな環境化学的知見 ―ヨウ化物イオン水溶液の最表面は、三ヨウ化物イオンに覆われていた―
2024.02.21
研究
プレスリリース内容
本学研究者
弘前大学理工学研究科 物質創成化学科 助教 関 貴一(「研究者総覧」の研究者ページへ)
本件のポイント
- 界面選択的な振動分光法とシミュレーションを組み合わせ、ヨウ化物イオンを含む水溶液表面の重水分子のOD 基の配向と数を定量的に評価することに成功しました。
- 定量的な評価によって、ヨウ化物イオンの水溶液の最表面は、ヨウ化物イオンではなく、三ヨウ化物イオンによって覆われていることを明らかにしました。
- 無酸素?暗所条件下で、ヨウ化物イオンの三ヨウ化物イオンへの化学変換が示唆され、環境問題として注目を集めている大気中へのヨウ素放出経路の新たな知見が得られました。
本件の概要
弘前大学大学院理工学研究科の関 貴一助教、マックスプランク高分子研究所(Max-PlanckInstitute for Polymer Research, Germany)のMischa Bonn教授とYuki Nagata博士らの共同研究グループは、高精度で界面選択的な振動分光法と第一原理分子動力学(ab initio MolecularDynamics, AIMD)シミュレーション※1 を組み合わせ、ヨウ化物イオン水溶液の最表面が、無酸素?暗所条件下で自発的に発生した三ヨウ化物イオンによって支配されていることを明らかにしました。
ヨウ素などのイオンを含む水溶液の表面は、エアロゾル※2 形成の重要な場として大気化学的観点から注目を集めてきました。これまで水溶液表面のイオンは、イオンの界面活性※3 について?らく議論されてきた一方で、水溶液表面におけるイオン種の組成、特に大気化学的に注目を集めるヨウ化物イオンの水溶液表面における化学安定性については不明な点が多く残っています。
このヨウ化物イオンの水溶液表面における化学安定性を明らかにするために、本共同研究グループは高精細に界面の水分子の水素結合構造を認識するヘテロダイン検出和周波発生振動分光法(heterodyne-detected sum-frequency generation spectroscopy, HD-SFG)※4 とAIMDシミュレーションを組み合わせ、水溶液最表面の重水分子のOD基の数密度を定量的に評価することで、無酸素?暗所という温和な条件下でヨウ化物イオンから三ヨウ化物イオンが生成され、さらにその異様に高い界面活性のため三ヨウ化物イオンが水溶液最表面を覆い尽くしていることを突き止めました。この発見は、気液界面が無酸素?暗所条件下でも三ヨウ化物イオンを発生させるユニークな反応場であることを示し、微量でも発生した三ヨウ化物イオンが大気中へヨウ素放出の新たな経路になりうることを示唆しています。
なお本研究成果は米国化学会誌『 Environmental Science Technology』にオンライン掲載されました。(2024年2月14日)。
用語説明
- ※1 第一原理分子動力学(ab initio Molecular Dynamics, AIMD)ミュレーション:古典的な分子動力学シミュレーションと異なり、実験データなどの経験的パラメータを含まず、量子力学に基づき原子間に働く相互作用を見積もり、分子?物質の運動や性質を調べるシミュレーション手法を示す。
- ※2 エアロゾル:大気などの気相中に浮遊する固体や液体などの微粒子を示す。
- ※3 界面活性:表面または界面への吸着しやすさを指す。
- ※4 ヘテロダイン検出 SFG 分光法(heterodyne-detected SFG, HD-SFG):次の非線形光学効果を用いた界面選択的な振動分光法である。対象とする界面に中赤外光と可視光のレーザーパルスを照射することで、反転対称性の破れた界面分子構造から、分子の振動情報(例えば水分子のO-H 伸縮振動モードなど)がエンコードされた SFG 信号が発生する。HD-SFG 分光法では、中赤外光と可視光の 2 つレーザーパルスに加えて、参照信号として新たにレーザーパルスを導入することで、二次の非線形感受率の位相を取得することができる。位相情報は振動子の界面に対しての上向き?下向きなどの配向情報を含んでいる。
詳細
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プレスリリースに関するお問合せ先
弘前大学理工学研究科 物質創成化学科 助教 関 貴一
TEL:0172-39-3947
E-mail:tsekihirosaki-u.ac.jp