弘前大学

5歳の子どもの18%に睡眠問題が存在 睡眠問題に関連のある発達特性や生活習慣などの因子を解明 ~地域の5歳児健診の結果から~

2024.04.15

プレスリリース内容

本学研究者

弘前大学大学院保健学研究科 心理支援科学専攻 斉藤 まなぶ 教授(「研究者総覧」の研究者ページへ)

本件のポイント

  • 本研究の成果は、2024年4月4日に学術誌 Frontiers in Pediatrics に掲載されました。この論文は疫学調査によって、5歳の子どもで睡眠問題を有する子の割合(有病率)を明らかにし、さらに発達障害の有無の他、兄妹姉妹の数や収入などの家庭環境、就寝時間?起床時間?睡眠時間などの睡眠習慣やスクリーンタイム(1)などの生活習慣と睡眠問題の関連を解明した国内で初めての報告です。
  • 弘前大学大学院保健学研究科心理支援科学専攻 斉藤まなぶ教授らの研究グループは、2013年から弘前市の全5歳児に対する5歳児発達健診を毎年実施しており、その結果を用いて睡眠に関する疫学調査を行いました。
  • その結果、5歳の子どもの18%に睡眠問題が存在することがわかりました。さらに、自閉スペクトラム症(ASD)の50.4%、注意欠如多動症(ADHD)の39.8%に睡眠問題がありました。家庭環境では、収入200万円未満、兄弟姉妹なし、生活習慣では、就寝時間が22時以降、起床時間が7時30分以降、睡眠時間が9時間未満、入眠遅延が30分以上、スクリーンタイムが2時間以上/日のグループにおいて有意に睡眠障害の有病率が高いことが明らかになりました。

本件の概要

子どもの不眠は、肥満などの健康問題の他、学業成績、認知能力、行動の問題、自殺など、心身の健康に影響することが近年明らかになってきました。また神経発達症(2)(NDS)があると睡眠の問題が多いこともわかってきています。しかし、一般の就学前の幼児の睡眠問題の有病率、家庭背景や生活習慣の影響について詳細に調査した研究は国内外でもありません。そこで、2013年から毎年実施している弘前市5歳児発達健診の結果より、①5歳における睡眠問題の有病率がどのくらいあるのか、②発達障害児がどれくらい多く睡眠問題を抱えているのか、③家庭背景や生活習慣は睡眠問題に関係するのか、の3点を明らかにするために本研究を行いました。

睡眠問題の有病率は、2018年と2019年に弘前市5歳児発達健診に参加した5歳児2,055人から算出しました。さらに家庭背景や生活習慣の要因における睡眠問題の有病率を算出するために、2014年と2015年に精密検診に参加した5歳児281名を追加し、合計2,336人を対象としました。未就学児のための日本睡眠質問票(JSQ-P)を用いて、合計スコアが86以上である場合に、睡眠問題があると定義し、睡眠に影響を与える10因子(NDSの診断、誕生月、保育場所、収入、兄弟姉妹の数、就寝時間、起床時間、睡眠時間、入眠遅延、スクリーンタイム)について調べました。

解析の結果、10因子のうち8つ(診断、収入、兄弟姉妹の数、就寝時間、起床時間、睡眠時間、入眠遅延、スクリーンタイム)において有意に睡眠障害の有病率が高いグループが明らかになりました。(図1)

(図1)

また、5歳の子どもの18%に睡眠問題が存在していました。診断においては、ASDの50.4%、ADHDの39.8%に睡眠問題がありました。NDSのない5歳児の睡眠問題の有病率は14.8%であり、ASD児で3.4倍、ADHD児で2.7倍も睡眠問題の有病率が高いことがわかりました

家庭環境では収入200万円未満では30.5%、兄弟姉妹なしで24.2%に睡眠問題があり、生活習慣では就寝時間が22時以降で30.7%、起床時間が7時30分以降で30.7%、睡眠時間が9時間未満で25.3%、入眠遅延が30分以上で35.3%、スクリーンタイムが2時間以上/日で21.1%であり、これらのグループでは睡眠障害の有病率が各因子の中で有意に高いことが明らかになりました。(図2)

(図2)

本研究は、日本の文化と年齢に適した睡眠尺度を使用し、5歳の未就学児に限定して人口ベースで有病率を計算した日本初の報告です。睡眠問題の有病率は使用する調査尺度や睡眠問題の定義によって結果が変わる可能性があります。近年のメタアナリシス(3)でも3 8~54%と結果について一貫性が示されていません。今回用いた睡眠尺度(JSQ-P)は大阪大学の研究者たちが開発し、睡眠障害の診断に基づいてカットオフが作られており、日本人の子どもの睡眠評価には信頼性が高いものです。

日本では伝統的に、未就学児は両親や兄弟と一緒に寝ます。兄弟姉妹がいる子は兄弟姉妹と一緒に寝、兄弟姉妹がいない子は両親と一緒に寝ます。日本人の成人は睡眠時間が短い傾向にあるため、兄弟姉妹がいない子どもは一緒に寝る大人の生活習慣の影響を受けやすいです。これは、両親と一緒に寝る子どもは兄弟姉妹と一緒に寝る子どもよりも睡眠問題を生じる可能性が高いことを意味します。

また、睡眠問題とスクリーンタイムの関連について、最近のメタアナリシスでは、ソーシャルメディアの頻繁な使用が若者の睡眠不足の危険因子であることが示されています。さらに本研究では、スクリーンタイムが多い子は就寝時間が遅くなる傾向があることが示されました。スクリーンタイムが 一日あたり2時間未満の子どもは睡眠問題の有病率が低いため、スクリーンタイムを2時間未満に制限することをお勧めします。

睡眠は、認知機能、身体的および精神的健康、日中の行動に関連しており、発達途上の子どもとって、とても大切な生理機能です。子どもの睡眠の問題を詳しく調査し、まずは環境や生活習慣を調整し、子どもの睡眠を改善することが重要です。これまでの研究では、簡単な環境や生活習慣の調整によって子どもの睡眠を改善できることが示されています。子どもの睡眠の悩みを解決するには、子どもの睡眠に良い生活習慣を発達の早い段階から家族が知っておく必要があります。

本研究による結論

本研究からは、以下の4つの推奨事項が導かれました。

  1. 5歳の子どもの5~6人に1人(18%)に睡眠の問題が存在します。未就学児の健康診断では、睡眠に問題がある子どもが一定数いることを想定して、適切な保健指導を行う必要があります。
  2. 家族と一緒に寝る日本の伝統的な文化では、兄弟姉妹と一緒に寝ることがプラスの効果をもたらす可能性があります。
  3. 睡眠障害が少ないグループでは、21時まで(遅くとも22時まで)に寝ること、6時半まで(遅くとも7時半まで)に起きること、20分以内(遅くとも30分以内)に寝付くこと、スクリーンタイムは2時間未満/日にすること、の4つの生活習慣が行われていました。私たちは子どもの健康のために、この4つの生活習慣を推奨します。
  4. 今後の研究において、発達障害と睡眠障害との関連を調査する際には、家庭環境や生活習慣の要因などの交絡因子を適切に考慮する必要があります。

研究プロジェクトについて

本研究は、弘前市の協力のもと、文部科学省の科学研究費助成事業(16K10239、19K080 62、22H00987、23H01039)、弘前市受託研究、弘前大学次世代機関研究、弘前大学次世代重点研究及び弘前神経科学研究所の助成により行われました。

論文情報

論文名:“ Prevalence and factors of sleep problems among Japanese children: a popu lation-based study ”
雑誌名:Frontiers in Pediatrics
文献URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fped.2024.1332723/full#B5

用語解説

(1)スクリーンタイム:テレビやビデオなどの画面を見ている時間
(2)神経発達症 :発達の早期に明らかとなる神経発達症群で、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、学習症などがある
(3)メタアナリシス :複数の研究の結果を統合して、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のことをいう。

プレスリリース

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本学お問合せ先

弘前大学大学院保健学研究科心理支援科学専攻 教授 斉藤 まなぶ
TEL:0172-39-5488
E-mail:smanabuhirosaki-u.ac.jp