弘前大学

社会的孤立を自覚し孤独を感じることが抑うつ症状を高める

2024.04.25

プレスリリース内容

社会的に孤立している客観的な状態は孤独感や抑うつ症状とほとんど関連がない一方で、社会的に孤立していると主観的に感じることや孤独感が、抑うつ症状と関連することが分かりました。特に、社会的に孤立していると自覚し、孤独を感じることが、抑うつ症状をさらに高めることが明らかになりました。

客観的に見て「人とのつながりが少ない」状態の社会的孤立と、主観的に感じる否定的な感情の孤独感は、いずれも心身に悪影響を及ぼします。一方で、社会的孤立の状態であっても、孤独を感じずに健康的に過ごすことができる人々もいます。しかし、社会的孤立や孤独感が、メンタルヘルスに影響するプロセスついて、総合的な検討はほとんど行われていませんでした。

本研究では、社会的に孤立している客観的状態そのものは孤独感や抑うつ症状とほとんど関連がなく、社会的に孤立していると主観的に感じることや孤独感が、抑うつ症状と関連することを見いだしました。特に、社会的に孤立していると当人が認知し、そこに孤独を感じることによって、抑うつ症状がさらに高まることが分かりました。この結果は、社会的孤立の状態について、当人がどのように感じているかに着目することが重要であり、社会的孤立の状態にある人々に支援をする際には、人とのつながりを増やすだけでなく、個人の認識や考え、感情に焦点を当てる必要性を示しています。

本研究グループでは、社会的に孤立していても、社会生活や健康を維持し、個々が充実した生活を送ることができる健康な「個立」社会を創ることを目指しています。社会的孤立や孤独感が、抑うつ症状にどのような影響を及ぼすのかについて知ることは、社会的孤立や孤独感を予防するための新たな方略の開発につながると期待されます。

研究代表者

研究の背景

社会的孤立と孤独感は、世界的にも重大な問題として取り上げられています。客観的に見て「独りでいる」、「人とのつながりが少ない」状態の社会的孤立と、主観的に感じる否定的な感情の孤独感は、いずれも心身に悪影響を及ぼすことが知られています。一方で、社会的孤立と孤独感の関連はそれほど強くないことが示されており、社会的孤立の状態であっても、孤独を感じずに健康的に過ごすことができる人々もいます。しかし、これまでの研究では、社会的孤立や孤独感は、それぞれ単独で心身に影響を及ぼすことは分かっているものの、これらが、どのようなプロセスを経てメンタルヘルスに影響するのかについて、総合的な検討はほとんど行われていませんでした。

研究内容と成果

本研究では2022年3月にオンライン調査を実施し、その回答者3315名(男性:1805名、女性:1493名、その他:7名、不明:10名、平均年齢 50.50 歳、標準偏差 10.69)を対象に、人とのつながりの程度を表す社会的ネットワーク 注1)、社会的に孤立していると主観的に感じること(社会的孤立の認知 注2))、および孤独感 注3)が、抑うつ症状 注4)に影響を及ぼすプロセスについて検討しました。その結果、社会的ネットワークが少ない、すなわち社会的に孤立している客観的な状態そのものは、社会的孤立の認知、孤独感および抑うつ症状とほとんど関連がなく、社会的に孤立していると主観的に感じ、孤独感を持つことが、抑うつ症状と関連することを見いだしました。さらに、社会的に孤立していると当人が認知し、そこに孤独を感じることによって、抑うつ症状はより高まることが分かりました(参考図)。男女別に解析した場合にも、同様の結果が得られたことから、性別に関係なく、社会的に孤立していると感じることや孤独感を持つことが、抑うつ症状と関連すると考えられます。

以上より、客観的な社会的孤立状態であっても、必ずしも不健康につながるわけではなく、むしろ、社会的孤立の状態について、当人がどのように感じているかに着目することが重要であることが明らかになりました。このことは、社会的孤立の状態にある人々への支援において、人とのつながりを増やすだけでなく、個人の認識や考え、感情にも焦点を当てる必要があることを示唆しています。

今後の展開

本研究により、抑うつ症状により強く関連する要因は、社会的に孤立していると感じることや孤独感であることが分かりました。現在の社会的孤立?孤独対策においては、孤独と孤立が必ずしも明確に区別されていませんが、社会的孤立と、孤独感やそれに伴う抑うつ状態のメカニズムについての理解がより進むことで、社会的孤立や孤独感を予防するためのより良い方策の開発につながると期待されます。

本研究グループでは、社会的に孤立していても、社会生活や健康を維持し、個々が充実した生活を送ることができる健康な「個立」社会を創ることを目指しています。今後さらに、社会的孤立と孤独の予防や軽減のために効果的な支援や介入の方法について、研究を進めます。

図 本研究の結果の概要
図中の数字は、関連の強さを表す(関連が弱い:.20 未満、関連が中程度:.20~.50、関連が強い:.50超)。また、実線は正の関連、破線は負の関連を表す。家族および友人との社会的ネットワークに着目すると、社会的孤立の認知と負の関連を認める一方(青線)、孤独感および抑うつ症状(黒線)との直接の関連は弱いことが分かった。一方で、社会的ネットワークよりも、社会的孤立の認知や孤独感の方がより強く抑うつ症状と関連している(赤線)。また、社会的ネットワークよりも、社会的孤立の認知の方が孤独感と強く関連していることも示されている。加えて、社会的ネットワークと抑うつ症状の間に、社会的孤立の認知や孤独感があることで、抑うつ症状がより高まることが見いだされた。すなわち、社会的に孤立していると感じ、さらに孤独感を高めることが、抑うつ症状をより強める可能性が明らかになった。

用語解説

注1)社会的ネットワーク(Social Network):社会的孤立の客観的状態を表す指標として多くの研究で用いられており、家族や友人、近所の人とのつながりや接触頻度などが含まれる。本研究では、家族や親戚および友人との接触頻度や親密度を取り上げている。社会的ネットワークが小さい場合、社会的に孤立している状態であることを表す。
注2)社会的孤立の認知(Perception of social isolation) :社会的に孤立している状態に対する個人の認識。
注3)孤独感(Loneliness) :社会的つながりの欠如、または特定の相手/仲間との人間関係が、本人が抱く理想的な状態に対して主観的に不足している時に生じる否定的感情。
注4)抑うつ症状(Depressive Symptoms) :一時的な気分の落ち込みや憂うつな気分、興味や気力の喪失などの症状。本研究では、調査回答時から過去2週間について、抑うつ症状にどのくらい頻繁に悩まされているかを尋ねた。

研究資金

本研究は、JST社会技術研究開発センター(RISTEX) 社会技術研究開発事業「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立?孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)」におけるプロジェクト「社会的孤立の生成プロセス解明と介入法開発:健康な「個立」を目指して」(研究代表者:太刀川 弘和、JPMJRX21K2)の支援を受けて実施されました。

論文情報

【題名】How Do Social Networks, Perception of Social Isolation, and Loneliness Affect Depressive ymptoms among Japanese Adults?
(日本成人において社会的ネットワーク、社会的孤立の認知および孤独感は抑うつ症状にどのように影響するのか)
【著者名】N. Kushibiki, M. Aiba, H. Midorikawa, K. Komura, D. Sugawara, Y. Shiratori, N. Kawakami, T. Ogawa, C. Yaguchi, T. Hirokazu.
【掲載誌】PLOS ONE
【掲載日】2024年4月24日
【DOI】10.1371/journal.pone.0300401

プレスリリース

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お問合せ先

【研究に関すること】
筑波大学 医学医療系 教授 太刀川 弘和(たちかわ ひろかず)
TEL: 029-853-3343
Email: tachikawamd.tsukuba.ac.jp
URL: https://plaza.umin.ac.jp/~dp2012/

【JST事業に関すること】
科学技術振興機構 社会技術研究開発センター 長田 直樹(ながた なおき)
企画運営室 TEL: 03-5214-0133
Email: koritsu-infojst.go.jp

【取材?報道に関すること】
弘前大学大学院保健学研究科 総務グループ
TEL: 0172-39-5906
Email: jm5906hirosaki-u.ac.jp