本学大学院生が「建物の放射線遮蔽効果」について執筆した論文がTop10%ジャーナルに掲載されました
2024.11.27
研究
弘前大学大学院保健学研究科放射線技術科学領域博士前期課程2年の田岡 愛弥 さん(被ばく医療総合研究所 床次 眞司 教授 研究室所属)と工藤 琉衣 さん(保健学研究科 細田 正洋 教授 研究室所属)が執筆した学術論文が、国際的な学術雑誌『Ecotoxicology and Environmental Safety誌』に掲載されました。
本学術雑誌はインパクトファクタ6.2を有し、同誌が対象とする科学分野において上位10%以内(Top10%ジャーナル)に位置する国際的に有力な学術雑誌です。博士前期課程の大学院生が在学中に学術論文を執筆し、有力な学術雑誌に掲載されることは大変栄誉あることです。
本研究では、原子力災害時における放射線被ばくの評価で重要となる建物の放射線遮蔽効果(線量低減係数)について検討しました。災害時に避難所となる小学校や中学校の校舎及び体育館の線量低減係数はこれまで評価されていません。また、福島第一原子力発電所事故以降に評価された建物の線量低減係数は国際的な定義に基づかず、簡易的な評価にとどまっていました。そこで、特定復興再生拠点区域である福島県浪江町の小学校や中学校の校舎及び体育館の線量低減係数について、国際的な定義に基づき評価しました。
その結果、校舎の線量低減係数は約0.05、体育館の線量低減係数は0.10から0.20程度と評価されました。これは、校舎及び体育館の構造により屋外の空間放射線量が低減され、屋外の放射線量の5%から20%が屋内の空間放射線量に寄与することを意味します。国際原子力機関は、技術文書「放射線緊急事態時の評価および対応のための一般的手順」(IAEA-TECDOC-1162)の中で米国や欧州で評価された建物の線量低減係数を例示しています。これと比較をすると、今回評価された校舎の線量低減係数は、米国や欧州の建物に与えられた係数と同程度でした。また、体育館の構造に類似した建物の線量低減係数はIAEA-TECDOC-1162には例示されておらず、国際文書に記載されうる新たな知見となります。本研究成果は、原子力災害時の放射線被ばく線量評価の精緻化や、行政による避難所および避難退域時検査場所の選定に大きく貢献することが期待されます。
本研究は、弘前大学浪江町復興支援活動の一環で、福島イノベーション?コースト構想推進機構「大学等の『復興知』を活用した人材育成基盤構築事業」の支援の下、実施されました。また、本研究における調査は、一般社団法人浪江青年会議所が実施した標葉祭り2023(https://lit.link/namie662)の開催に向けた空間放射線量の事前調査の依頼を受け、実施されました。
Top10%ジャーナルへの掲載について、田岡さんは「人材育成事業に参加することで、データの測定?解析から資料の作成など一連の流れを経験し、成長することができました。研究成果を国際的な学術雑誌に掲載できたことを嬉しく思うとともに、ご指導いただいた先生方に深く感謝いたします」、工藤さんは「調査データを住民の方への安心材料として提供することで、標葉祭り2023の開催に貢献することができ、充実感を得るとともに自信が付きました。このような貴重な機会を与えてくださった先生方に深く感謝申し上げます」と語りました。
論題:Structure shielding of school and gymnasium buildings against fallout gamma radiation from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident
著者:田岡愛弥1、工藤琉衣1、山田椋平2、大森康孝2、菊池和貴1,2、細田正洋1,2、床次眞司2
所属:1弘前大学大学院保健学研究科、2弘前大学被ばく医療総合研究所
掲載誌:Ecotoxicology and Environmental Safety
URL: https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2024.117394